「書きことば」「大人ことば」

 国語読解の記述の答案を点検していると、「~じゃない」ということばを使っている子が結構います。その他にも「~だけど」・「食べれる」・「見れる」などを無意識に書きます。正しくは、「~だけれど」・「食べられる」・「見られる」。ちなみに、「来られる」ですが、可能の表現なのか尊敬の表現なのか区別が出来ないので、「来ることができる」が正しい表現です。

 

 LINEが普及しはじめたころ、LINEに打ち込んでいる台詞を「文」・「文章」だと思っている子が結構いましたが、さすがに、これだけ普及し、色々な問題が噴出すると、小学4年生のお子さんであっても、LINEで送っているのは「文」や「文章」ではなくて「声を文字に置き換えてしゃべっているだけ」という認識を持つまでになっていますね。これは大変良い傾向です。

 

  ところで、「文」と「文章」の違いはご存じでしょうか。「文」は書き始めて句点(「。」)で

終えるまでで、その集合体が「文章」です。

 

 中学2年生や3年生の生徒さんで国語が全然伸びないと訴えて私の塾の扉を開けて下さる新規の方を拝見しまするに、小学生の低学年期から中学年期にうつる、いわゆる小学3年生から4年生の期間がいかに大事なのかを痛感させられることが多いですね。

 

 例えば、こんな感じです。

 

【漢字ギャップ】

 

 これは小学4年生の時期に学ぶ漢字で起こります。中学生になって漢字が読めなくなる、漢字が覚えられなくなってくる子のほとんどが4年生辺りからあやふやになっています。

 

【ことばの決まりギャップ】

 

 いわゆる文法ギャップです。主語・述語がどれか分からないというものです。「~が」「~は」に当たる部分が主語という風に教えられている生徒さんが多いのですが、そういう教え方をされているので、例えば、「私は犬が好きです。」の主語は「犬が」だと答えたり、「僕も走ります。」には主語がないと判断したりします。

 

 ちょっと寄り道をしますが、高校生君に尋ねてもまともに答えられない質問があるので紹介しますと、「名詞とはどんな言葉ですか?」というのがあります。ちゃんと勉強をしていない高校生君は問題外として、ある程度の勉強をちゃんとしている生徒さんであれば、「主語になることが出来ることば」と答えますが、間違いです。名詞はそれ自体では文の中で何の働きもできない言葉で、単なるものの名前であったり人名・地名・作品名などの固有名詞であったり、「こと」「もの」などの形式名詞であったり、「私」・「あなた」・「これ」などの代名詞であったりします。ここに外国語には決して存在しない品詞である助詞が置かれることで、初めて文の中での役割を得るのです。例えば、「私」であれば、「が」という格助詞や「は」という副助詞がおかれて「私は」「私が」という主語としての役割を担い、「私を」「私に」というように「を」や「に」という格助詞を接続させることで「目的語」という役割を得て、文の中で活躍するのです。この性質を持つ言葉が名詞です。

 

 

 お話を戻します。特に【ことばギャップ】が露わになるのは、中学2年生の数学での証明問題とか、確率の問題にさしかかったときです。証明文が書けない生徒さんが出て来ます。中学校の数学における証明文なんて、特に基本的なものはテンプレートに近い決まった形式があるのです。なのに書けないのです。これは数学的な部分ではなくて国語的な部分に問題があるのです。さらに、確率の場合はこういう表現でつまづきます。

 

 「くじ引きで、少なくともAさんまたはB君のどちらかが当たる確率」という表現について、(「自称」ではなくて「本当」の)進学校の高校3年生になっても教科書のこの表現が理解出来ない生徒さんが半数も存在したということを聞いたことがあるので、驚いたというよりも、呆れてしまいました。それで、どこに引っかかっているのかというと、「少なくとも」という部分です。つまり、「① Aさんが当たる  ② B君が当たる  ③ AさんもB君も両方が当たる」のだから、両方とも当たらない方を見た方が容易に解ける。この連鎖反応が出来ないのです。

 

 このような思考レベルの中学2年生や3年生のお子さんを観ていると、大抵の場合、「話しことば」と「書きことば」の区別が出来ていません。そこで、今現れている(国語が伸びないだけでなくて全科目にわたって伸び悩んでいる)現象だけに目を向けるのではなくて、その奥に潜むいわゆる「根っこ」を調べていくと、大抵が【漢字ギャップ】・【こどばの決まりギャップ】にたどり着きます。

 

 小学4年生辺りからの漢字があやふやで、小学3年生辺りからのことばの決まりがあやふやなのです。特に3年生辺りのことばの決まりをあやふやなままで置き去りにしてきた子は、「大人ことば」が理解しづらくなります。 それで、どこで「子どもことば」から「大人ことば」に変わるのかというと、算数の教科書と数学の教科書を見比べてもらえば一目瞭然です。

 

 実は、ここから「ギャップ」が始まるのです。教科書に書かれている意味がだんだん理解できなくなってくる。これが「中1ギャップ」です。このギャップを小さくするかまるで感じないくらいにさせるには、小学生の間に「しゃべりことば=普段のおしゃべりをするとき」で、「話しことば=教室でみんなの前で発表するとき(フォーマルなシチュエーション)」であり、「書きことば=相手に分かりやすい文の書き方や文章の進め方を意識したことば使い=大人ことば」というように、これらの区別をはっきりと出来て、ある程度の使い分けが出来るように国語を学習しておくことがとても大事だと考えます。